忘失


ああ! 音楽のうしなわれた夜の
なんとむなしいことか
ほらがいのような沈黙は耳にはりつき
とほうもないかなしみが 身をきるようだよ……


女は古い衣装箪笥にしまわれていて
僕はそれをあけようか迷っていた
僕はその女が息をしていないことから、乳房のかたちがゆがんでいることまでしっているのに
僕にはこのかなしみのわけがわからないのだ
(それは取っ手が冷ややかだったからかもしれない、
黒い金属は黴と錆をまとっていた)
ただ閃光のような軽さが、
わずらわしいほどに身にまとわりついているだけで……


女のあおじろいような死に顔が
日とともにゆるゆるのぼっていく
僕は安酒のような孤独を味わえないでいる
太陽は僕に吐瀉物をなげかけている


               二〇一三 二月  四月十六日改稿


   

  
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